「だって人は誰でも、失敗をする生きものですものね。だから役者さんには身代わりが必要なの。私みたいな」
交通事故の保険金で帝国劇場の『レ・ミゼラブル』全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。
金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ『ラ・シルフィード』。
お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。演じること、観ること、観られること。ステージの此方と彼方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。
何らかの形で舞台が出てくる短編集。どれも良かったが、強いて言えば、冒頭の「指紋のついた羽」と最後の「無限ヤモリ」が好きだった。「指紋のついた羽」の最後の1文はとても美しかったし、「無限ヤモリ」の幻想的なラストも印象深い。