夢見る帝国図書館(中島京子)★★★★☆ 7/13読了

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。
知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!

物語は著者の分身が喜和子さんという60歳くらいの女性に上野公園で出会うところから始まる。我が国における図書館の歴史に関する本なのだが、喜和子さんの人生をたどりながら、図書館の歴史も語るという構成になっている。樋口一葉など帝国図書館に通った文豪たちの話もあれば、関東大震災の話、戦争の話、日本国憲法の話まで出てくる。そんな日本の歴史の話の一方で、喜和子さんの娘や孫の話など家族の話も展開する。さすが中島京子と唸らざるを得ない面白さだった。本好き、図書館好きにとっては必読じゃないだろうか。