鈴を産むひばり(光森裕樹)★★★★☆ 9/30読了

第54回角川短歌賞を受賞した、ゼロ年代を代表する新鋭歌人の第一歌集。現代社会の何気ない風景を、リアリティある言葉で歌う。
ひとりの少年が社会の生活になじんでいく様子がおおらかに活写されている、青春歌集の傑作。

朝日新聞の田中槐のコラムで知った歌人であり歌集である。短歌や俳句は好きだけれども、普段からチェックしているわけではないので、存在を全く知らなかった。田中槐の引用していた歌にビビッと来たので買ってみた。歌集を買うのは花山周子の『屋上の人屋上の鳥』以来か。


個人的には、日常の一瞬を切り取って、ああなるほどと思わせる歌やちょっとシュールな歌が気に入った。いくつか引いてみる。

街灯の真下をひとつ過ぎるたび影は追ひつき影は追ひこす
齧りゆく紅き林檎もなかばより歯形を喰べてゐるここちする
しろがねの洗眼蛇口を全開にして夏の空あらふ少年
吊革のいづれを引かば警笛が鳴るかと試す最終電車

すべて旧仮名遣いなので、題材が新しくてもそれほど浮ついた感じはしなかった。何となく石川啄木を想起させる歌も多かったような気がする。
私が最も気に入ったのは下記の一首。

あかねさすGoogle Earthに一切の夜なき世界を巡りて飽かず

「あかねさす」という古典的な枕詞の後に「Google Earth」を持って来るというギャップが素晴らしいし、「す」で韻を踏んでいるのもいい。現代の短歌の可能性を示してくれた一首だと思う。

鈴を産むひばり

鈴を産むひばり