宿澤広朗 運を支配した男(加藤仁)★★★★☆ 6/16読了

私には、人となりはよく知らないが、一方的に尊敬している人が二人いる。一人は若島正で、もう一人が宿澤広朗である。どちらも天がニ物を与えた人物だ。
私はラグビーファンだが、宿澤が現役の頃はもちろん知らない。しかも残念なことに宿澤が日本代表の監督を務めてスコットランドから大金星を奪った試合も観ていない。ただ、スコットランド戦は勝ちに行くと宣言し、その宣言通り勝利した宿澤が試合後のインタビューで「お約束通り勝ちました」という名言を吐いたのはあまりにも有名だ。
日本代表の監督をしたり、NHKでラグビーの解説をしたりしている宿澤が住友銀行でも要職に就いていると知った時は大層驚いた記憶がある。なぜそんなことが可能なのか不思議でならなかった。
私はラガーマンとしての宿澤はある程度知っていたが、銀行マンとしての宿澤のこはまるで知らなかった。著者の加藤仁はラガーマンとしての宿澤よりもむしろ銀行マンとしての宿澤のことを丹念に取材している。日本代表としてプレーし、日本代表の監督まで務めた宿澤は銀行内の出世街道においてもある程度のアドバンテージはあった。但し、名声や運だけでは巨大銀行での出世は覚束ない。「努力は運を支配する」という言葉が宿澤の信条だった。傍目からは運良く出世して行ったように見える宿澤だが、負けず嫌いの性格ゆえ、裏では人一倍の努力をしていたのだ。ラグビーなんかやっているから、銀行での仕事がおろそかになるなどと思われるのはもってのほかだったようだ。
私は単に宿澤広朗という人間の人となりが知りたくて本書を手に取ったのだが、銀行での宿澤の言動はビジネスマンの手本というにふさわしい。頭取の一歩手前まで昇り詰めた宿澤のビジネス手法には見習うべき点が沢山ある。本書は優れたビジネス書でもあるのだ。
享年55歳。ノーサイドの笛はあまりにも早すぎた。彼が生きていれば、ラグビー界や金融界は今とは違っていたような気がする。本当に残念でならない。

宿澤広朗 運を支配した男
宿澤広朗 運を支配した男加藤 仁

講談社 2007-06-02
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