御社のチャラ男(絲山秋子)★★★☆☆ 6/11読了

社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。

ジョルジュ食品という会社のチャラ男をめぐる物語。何よりタイトルがいいよな。読みたいと思うもん。章立てはジョルジュ食品の社員ごとの視点になっている。男性もいれば女性もいて、若かったり中年だったりする。各人の思いが多層的に構成され、会社という組織やサラリーマンの生態が浮き彫りになっていく。リアルすぎて重く感じる場面もあったけど、総じて面白かった。コロナ騒動の前に書かれた小説だが、何となく暗示めいているところもあった。

以下は、気に入った箇所の引用。

いじめから逃れる方法を、ぼくはひとつだけ知っている。
ひとまわり広い世界に自分を置けばいいのだ。そこがすべてではないと感じられれば、逃げても逃げなくてもどちらでもかまわない。同じ場所で同じ目に遭っても平気になる。反撃だって出来るようになる。

これってあとから思えばそうなんだけど、渦中にいるときはなかなか分からないんだよな。

難しい時代だ。人々の心に余裕がないから、自由な意見が言いにくい。何かを言えばそうでない人から叱られる。気遣いがない、例外が見えてない、引っ込んでいろ、黙っていろと言われてしまう。私たちが真面目に働く世の中は、これは日本だけではなく世界中そうなのだが、ヤクザが仕切っていた頃の方が今より良かったと嘆いている歓楽街のような場所になってしまった。
だからもし、家族の関係が悪くないのなら、匿名でネットに書いて炎上するよりも、家で意見を交わせばいいと思う。政治のことでも、教育のことでも、「昔は気にしてなかったよね」ということでも。世の中の男(お父さんは除く)ってひどいよねというようなことも。
そのほうが穏やかな社会生活を送れる。
黙っているのは罪とか言う人たちは、実際には味方でもなんでもない。何もかも外で話そうなんて、それこそうんこちんこの愚かなイケメンと変わらない。

幸い我が家では家庭内で意見を交わせるので、SNSを捌け口にすることはない。