90ミニッツ@パルコ劇場

2011年、三谷幸喜生誕50周年スペシャル「三谷幸喜大感謝祭」そのアニバーサリー・イヤーのラストを飾るのは、『笑の大学』から15年振りとなる西村雅彦×近藤芳正出演の二人芝居です。
笑の大学』は第二次大戦中の表現における「検閲」という国のシステムを背景に、その「検閲する側」の検閲官と「検閲される側」の喜劇作家との会話の中に、三谷幸喜が探求しつづける「笑い」をテーマに「笑い」が人生に与える豊かさと「笑い」を描く作家の苦悩を描き、傑作ドラマを生み出しました。


今回のテーマは「倫理」です。
それぞれがそれぞれの立場で「正しい」選択をしなければならない。しかし、それは一方から見れば、「やってはいけないこと」であったりします。例えば、職業であったり、あるいは宗教や、家の家訓、国のイデオロギーの違いでも起こりうること。しかし、時と場合によっては、その「倫理」を越えたところで、行動しなければならないこともあるかもしれません。
三谷幸喜が描く二人の男性がそれぞれの「倫理」、つまり「立場」からぶつかり、葛藤する男二人が言葉でぶつかる会話劇です。どうぞご期待下さい!


公演日程:2011年12月3日(土)〜12月30日(金)
プレビュー公演:12月3日(土)・12月4日(日)
作・演出:三谷幸喜
出演:西村雅彦 近藤芳正
会場:パルコ劇場

舞台装置は簡素。病院の一室に机と椅子、それに向かい合うようにベンチがあり、まわりは白いカーテンで覆われている。
あらすじは朝日の夕刊の劇評から引用(以下同)。

大学病院の一室。交通事故で重傷を負って運ばれてきた9歳の少年の処置をめぐって、ベテランの整形外科医(西村雅彦)と少年の父親(近藤芳正)が真っ向から対立する。90分以内に手術をしないと子供の命は危ないと手術を迫る医師に対し、生まれ育った地方の風習と信仰に従い、輸血を伴う手術を拒否する父親。両者の溝は埋まらず、少年はついに危篤状態に・・・。

舞台装置は簡素なのだが、1つだけ仕掛けがある。

開演直後から、天井から一筋の水が舞台中央に静かに落ち続ける視覚的な仕掛けも効果的だ(堀尾幸男美術)。

この水は最初砂だと思った。でも下に砂が溜まらないから水だと気付いた。朝日の劇評ではこの水が少年の命を表しているとしていた。確かにそうとも取れると思うが、私はこれは、残り時間を刻んでいく砂時計の砂を表していると思った。まあ、どう受け止めるかは観る側の自由だろう。
構造的には「笑の大学」と似ている。立場の違う2人の男が対立するのだが、実は目指すところは同じなのだ(「笑の大学」の検閲官は最初からそこを目指していたわけではないが)。「笑の大学」にはお互いの歩み寄りがあり、そこに笑いも生まれたのだが、本作ではほとんど歩み寄りはない。歩み寄りそうになっても、結局堂々巡りになってしまう。そして、人の命が題材になっているので笑いの要素も少ない(それでも所々笑わせてくれたが)。
争点は1つなので下手すれば単調になるのだが、父親の妻との携帯での会話や医師と手術室との電話でのやり取りが効果的に配されており、観客を飽きさせないようになっている。
本作では暗転もなく、どちらかが引っ込むこともなく、2人とも最初から最後まで出ずっぱりである。これは実に見応えがあった。個人的には「笑の大学」の方が好きだけれども、本作も素晴らしい出来だと思う。西村雅彦と近藤芳正のぶつかり合いを生で観られて幸せだった。