食堂は、十字路の角にぽつんとひとつ灯をともしていた。私がこの町に越してきてからずっとそのようにしてあり、今もそのようにしてある。十字路には、東西南北あちらこちらから風が吹きつのるので、いつでも、つむじ風がひとつ、くるりと廻っていた。くるりと廻って、都会の隅に吹きだまる砂粒を舞い上げ、そいつをまた、鋭くはじき返すようにして食堂の暖簾がはためいていた。暖簾に名はない。舞台は懐かしい町「月舟町」。クラフト・エヴィング商会の物語作家による書き下ろし小説。
クラフト・エヴィング商會の本は何冊か読んだことがあるが、吉田篤弘名義の小説を読むのは多分初めて。既視感は漂うけれども文章は上手い。『深夜食堂』を堀江敏幸が書いたらこんな感じになるのかという気がする。ただ、堀江敏幸ほど小難しくはないので気楽に読める。
先に読んだ妻が、こんな映画を観たことがあるような気がすると言っていたが、本作も実は映画化されていた。公開は11月21日(土)。映画化のことは全く知らなかった。
『つむじ風食堂の夜』は篠原哲雄監督、八嶋智人主演によって映画化される。出演者は他に、生瀬勝久、月船さらら、下條アトム、田中要次、スネオヘアーら。北海道函館市の異国情緒漂う町並みを舞台に映画は繰り広げられる。すでに撮影は終了し2009年秋に公開予定。
お伽話のようなこの小説をどう映像化したのか楽しみだね。特にあの急な階段を持った7階建てのアパートをどう再現したのかが気になるな。
映画の公式サイトはこちら。 http://www.tsumujikaze.jp/
つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫) | |
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