映画『ゆれる』の監督である西川美和による小説版『ゆれる』が本書である。映画を観て胸にもやもやしたものが残ったので、小説を手に取ってみた。ページをめくると、「第一章 早川猛のかたり」とある。第二章は「川端智恵子のかたり」になっている。つまり登場人物の「かたり」によって本書は成り立っているのだ。この構成自体さほど目新しいものではないが、この構成によってこそ映画でのもやもやが晴れるのではないか。そんな思いでこの本を購入した。普通のノベライズなら買わなかっただろう。
私は先に映画を観ているので、読みながらも頭には映画の映像が浮かんでくる。この本の描写は映画で語り尽くせなかった部分を補完する役割も担っている。ワンカット、ワンカットに込められた思いや、俳優のほんのちょっとした仕草や表情の裏側にある意味など、映画を観ただけでは気付かなかった点も多い。
私の場合、どうしても映画寄りの読み方になってしまうが、映画を観ずにこの本を読んでも十分に面白いであろうことは保証できる。それぐらい西川美和の筆は冴え渡っている。映画を観てしまった記憶を一度消し去って、まっさらな気持ちで読んでみたいという気にさえさせてくれる。
映画では肝心な部分がややぼかされていてもやもやするのだが、それは小説でも同じだった。映画には盛り込めなかったエピソードはかなり出て来るのだが、本筋は映画に忠実である。エンディングもきっちり映画通りだった。結局、肝心な部分の解釈は観る者/読む者に委ねられているのだ。
それにしても素晴らしい才能の登場だね。芥川賞の候補になってもおかしくなかったんじゃないかな。西川美和は作家でも喰って行けるよ。
ゆれる | |
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東京でカメラマンとして活躍する弟。実家に残り、家業と父親の世話に明け暮れる兄。対照的な兄弟、だが二人は互いを尊敬していた、あの事件が起こるまでは…。監督デビュー作『蛇イチゴ』で映画賞を総ナメにした俊英・西川美和が4年ぶりに挑んだ完全オリジナル作品を、自らが小説化。