梁石日の本は今まで読んだことがないのだが、映画好きなのでタイトルに惹かれて読んでみた。映画小説と言えば、桐野夏生の『光源』を思い出すが、本書はそういった感じの本ではない。フィクションではあるが、主人公のモデルはどう見ても著者本人だし、半分ノンフィクションという感じである。椎名誠の本に近いと言えるかも知れない。
主人公で作家の「ソン・ヨンス」を軸に、映画に取り憑かれた人間たちのすったもんだが全編にわたって描かれている。とくに面白かったのが、ソン・ヨンス自身が俳優として参加した映画撮影の模様だ(ロケ地は日本)。監督は韓国人でスタッフも半分は韓国人。この日韓合同での撮影が、それぞれの文化の違いもあって衝突の繰り返しとなる。万事にいい加減な韓国スタッフに翻弄される日本の俳優やスタッフたち。一時は続行不可能かと思われるほど両者の溝は深くなるのだが、何としても映画を完成させるという情熱が両者のわだかまりを超え、最後には両スタッフたちは和解する。この一連の撮影話は映画制作のリアルな裏側が覗けて、非常に興味深かった。
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完成するのか、しないのか。一寸先は闇。映画制作に魅せられ、取り憑かれた人間たちの悪戦苦闘は果てしなく続く。―情熱は道を切り拓くことができるか?極限の人生を送った作家だからこそ持ちうる、深み、洒脱さ。『血と骨』の梁石日が描く、驚天動地の人間ドラマ。