学校でも家庭でも学べない「いま」を生きていくためのたいせつな知恵のかずかずについて、刺激的な書き手たちが、中学生以上すべての人に向けて、読みやすくコンパクトなかたちで書き下ろします。
といっても、この本で初めて「よりみちパン!セ」のことを知ったくらいで、他の本は読んだことがない(北尾トロやリリー・フランキーのはちょっと面白そうだな)。まあ、学校の先生が授業中に脱線したときに話してくれる話のようなものなのだろう。
さて、『演劇は道具だ』だが、これはタイトルからも分かる通り、実は演劇の話ではない(もちろん出て来るけどね演劇の話も)。「演劇」をひとつのきっかけとした「いかに生きるか」の話である。奇しくも、平田オリザの『演劇入門』のまえがきにもこうある。方向性は同じと考えていいだろう。
『演劇入門』とは、いささか大胆な名前だと思われるかもしれないが、本書は、演劇を通じて人を見る、演劇を通じて世界を見るということを、できるだけ多くの人に考え、体験してもらうために書かれている。
中学生にも分かるように書かれているので、非常に文章が平易だ。だが、平易だから底が浅いということは全然ない。むしろ、今まで読んできた宮沢章夫の本の中で最も内容的に深いのではないかという気さえする。ただ、そこは宮沢章夫なので、そこかしこに「宮沢節」が顔を覗かせている。
ずいぶん、あとまわしの話が多くなりましたが、いつ出てくるのかと期待していても出てこないかもしれません。それはこれを書いているわたしが忘れてしまったか、書く余裕がなくなったか、いまさら書いてもしょうがないと思ったか、いずれかですが、出てこなかったときは、自分で考えてください。「あとまわしにします」はべつの言葉でいうなら、いわば、「ヒント」です。なにもかも答えがわかったらそんな本はおもしろくないじゃないですか。
「演劇?」「演劇なんて興味ないし」という人が本書を手に取らなかったとしたら、それは実にもったいない話だ。もし仮にこの文章を読んでいる中学生がいたとして、図書室にこの本があるのなら、演劇に興味があろうがなかろうが是非手に取ってみて欲しい。薄いし字が大きいからすぐ読み終わるよ。
そして、読み終わって周りを見渡せば、風景がいつもと少し違って見えることに気がつくだろう。
演劇は道具だ | |
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