帝都衛星軌道(島田荘司)★★★★☆ 7/15読了

近年、島田作品には裏切られることが多かったのだが、「正直言って自信作です」と帯にあったので読んでみた(といっても図書館で借りてだが・・)。結論から言えば、惹句に偽りなしと言っていいでしょう。久しぶりに面白かった。
構成がちょっと凝っている。表題作が前編・後編に分かれていて、間に「ジャングルの虫たち」という独立した短篇が挟まっているのだ。表題作の前編が「謎の提示編」になっていて、後編が「解決編」になっているので、間に「ジャングルの虫たち」を挟むことによって、解決編への飢餓感を増す効果がある。なおかつ「ジャングルの虫たち」は後編の最後の部分に微妙にリンクしているのだ。

島田荘司といえば、荒唐無稽な謎の提示が魅力だ。特に大風呂敷を広げてくれればくれるほど期待感も増す。本作ではそれほど大きな謎ではないが、山手線という身近なものが舞台になっているので、なかなか興味深い。肝心の謎とはこんな感じ・・。

身代金受け渡し人として任命された女性は駅のコインロッカーでトランシーバーを受け取り、ヘッドセットを装着する。犯人とのやり取りはこのトランシーバーを介して行うわけだ(通話は一方通行になる)。なお、あらかじめ女性の体には小型マイクが付けてあって、警察は女性の話すことは聴くことができる。但し、犯人が何を言っているかは分からない。大きさからいってこのトランシーバーの電波範囲は半径5キロ。犯人は女性に山手線に乗るように指示を出す。駅から5キロ離れれば電波は届かなくなるはずだが、5キロ以上離れても犯人との交信は続いている。同じ電車にも前後の電車にも犯人らしき人物はいない。走り続ける山手線内の女性と、電波範囲半径5キロのトランシーバーを使って犯人は一体どうやって交信しているのか?

もちろん只の謎解きだけではなく、物語としての側面もある。今回は御手洗は出てこないけど、最近ではむしろ出てこない作品の方が面白いのかなという気さえしてきた。ただ、私は読まずに飛ばしていた、御手洗が出てくる『摩天楼の怪人』の評価が意外と高そうなので、今度は『摩天楼の怪人』も読んでみるかな。

帝都衛星軌道
帝都衛星軌道島田 荘司

講談社 2006-05-26
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おすすめ平均 star
star久しぶりに読んだ新刊でしたが・・・
star結局書きたかったのは・・・?
star読みたいのは純粋な本格ミステリ

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