一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに…。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば…。このY邸でいったい何が起きたのか?
主人公の建築士が、ある家族に依頼されて家を建てた。ところが、依頼してきた家族が何故かその家に入居していないことが判明する。この謎が物語のきっかけなのだが、全体の5分の1くらいまで、その謎の周りをウロウロするだけで話が先に進まない。しかし、そこから話が転がりだしたらあとは怒涛の展開だった。普段、本は外出中に読んで、家ではあまり読まないのだが、どっぷり読みふけってしまった。面白かったし、最後は泣けた。