iaku演劇作品集『粛々と運針』@こまばアゴラ劇場

あらすじ
年老いた母親の見舞いから帰って来た中年の男兄弟。病室にいた老紳士は母の恋人なのだろうか。一方、つくらない約束だった赤ん坊を授かってしまったかもしれない夫婦。命は誰のものか。時間だけは平等に、粛々と進んでいく。オリジナルキャストによる再演。
(2017年5月初演:iaku本公演)


演出:横山拓也
出演:尾方宣久(MONO)、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、市原文太郎、伊藤えりこ(Aripe)、佐藤幸子(mizhen)、橋爪未萠里(劇団赤鬼)


2018.5/16wed〜5/28mon
こまばアゴラ劇場

結構長いこと芝居を見続けているけど、その中でも記憶に残るであろう1本になった。
勝手に、作り込まれた舞台セットなんだと思い込んでいたら、その真逆で、椅子が6脚置いてあるだけのシンプルな舞台装置での会話劇だった。
登場するのは3組の男性・女性、男性・男性、女性・女性。望まない子どもを授かってしまったかもしれない関西弁の夫婦と、年老いた母親の見舞いから帰って来た中年の男兄弟と、粛々と針を運ぶ謎の女性2人。この女性2人が誰なのかは最後の方で分かる。
要は、生まれてこようとしている命と消えゆこうとしている命の話である。子どもを産むべきなのか否か、親の尊厳死を認めるべきなのか否か。答えの出ない重い命題を扱っている。
かといって、暗い芝居ではない。関西弁の夫婦はそのまま夫婦漫才師になれるんじゃないかと言うくらい息の合った面白い会話を聴かせてくれたし、中年の男兄弟の方の会話も笑いが多かった。台本は当て書きとしか思えなかった(実際そうなのかもしれないが)。兄役のMONOの尾方宣久は、MONOの尾方宣久のまんまだったもんなあ。一方の弟役の近藤フクは風貌といい、喋り方といい、小林賢太郎に似ていてびっくりした。
お互いに全く関係がないはずの夫婦と兄弟の会話が段々に近づいていき、最後には時空を超えて交わることになる。とにかく脚本が素晴らしいし、それを具現化した俳優の演技も素晴らしかった。俳優たちは喋らないときも舞台上の椅子に座っているので、6人とも最初から最後まで出ずっぱりである。
決してハッピーエンドではないけれど、ほのかに明かりは見えて、考えさせられるラストだった。終演後の拍手には皆さん力がこもっていた。ダブルのカーテンコールも当然の出来映えだったと思う。とてもいい芝居を観ました。