幻影の書(ポール・オースター)★★★★★ 11/23読了

救いとなる幻影を求めて――人生の危機のただ中で、生きる気力を引き起こさせてくれたある映画。主人公は、その監督の消息を追う旅へ出る。失踪して死んだと思われていた彼の意外な生涯。オースターの魅力の全てが詰め込まれた長編。オースター最高傑作!

飛行機事故で家族を失ったデイヴィッド・ジンマー。彼を失意の底から救ったのは一編の無声映画だった。その映画の監督であり、脚本家であり、主演であるヘクター・マンなる人物は謎の失踪を遂げ、既に死んだと思われていた。デイヴィッドはヘクターの足跡を追ううちに彼の数奇なる人生を知ることになる。そして、デイヴィッド自身がヘクターの運命に関わることになる。


とにかくヘクター・マンの人生があまりにも波乱に富んでいて実に読ませる。全ての物語は巧妙な入れ子構造になっており、デイヴィッドはヘクターの人生を生き、我々読者はヘクターのそしてデイヴィッドの人生を生きることになる。


ポール・オースターの物語を紡ぐ才能は本当に素晴らしい。そこら辺に転がっていそうな話を「あるよね〜、そういう話」という風に仕立て上げているのとは訳が違う。「無」から「有」を紡ぎ出し、あり得そうもない話に息吹を吹き込み、登場人物たちに存在感を与え、読者の胸を打つ「おとぎ話」を作りあげる。


柴田元幸の解説を読むと、嬉しいことにこのあとに発表された作品も本書と同等以上の水準を保っているらしい。今から読むのが楽しみだな。

幻影の書
幻影の書柴田 元幸

新潮社 2008-10-31
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おすすめ平均 star
starなんとなくずるずるとオースターを買い続けている私に近い感覚の方へ。
starオースターの記念碑的傑作の待望の柴田訳
star僕たちは「意味」がなければ生きていけない

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