相変わらずの堀江節で、読みやすいものもあるし、難解なものもある。その難解なものを我慢して読むのも醍醐味なのかもしれない。
結構自伝的なものも多く「高校時代の三年間を通して私はずっと国文科志望で、読書対象はほぼ平安期の古典文学に集中していた」なんてことは初耳だったし、大学受験の際に親戚の家に二週間ほど居候して、その時初めて早稲田の古書店街と接触した、なんて話はなかなかに興味深かった。
多分本当の書評ではなくて書評らしき文章なのだと思うが、そういった話も当然あって、『カフカ短篇集』、『日日雑記』(武田百合子)、『包む』(幸田文)なんかは読みたくなったね。
タイプライターや鉛筆削り用のナイフなど道具に対するこだわりも相当で、そんな話も色々あるが、そう言えば、堀江敏幸の文章にブルボン・キーホルダーが出てきたのを見たことがない。フランスのアンティーク・キーホルダーだから、きっと1つくらい持っていると思うのだが、道具ではないから特に興味はないのかもしれない。
取り留めもなく書いてきたが、「日々を取り繕う」という一篇の次の文章がなかなか良かったので引用する。
ぽいと捨ててあたらしいものを買うより、使い慣れたものを手持ちの道具と材料で「取り繕う」こと。たしかにそれは一時的なごまかしにすぎないだろうけれど、日々を送るということは、精神面もふくめて、そうしたささやかな「取り繕い」の反復なのではなかろうか。
『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹)の「そして本当に価値のあるものごとは往々にして、効率の悪い営為を通してしか獲得できないものなのだ」という文章にちょっと通ずるところがあるね。
アイロンと朝の詩人—回送電車3 | |
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