わたしの頭部には一センチ四方の小さな正方形の孔があいている。一生に一度、訪れる激しい頭痛とともに、無名の記憶が不意に臨界点を迎えてなだれ込む。眼前を通過する、飛行機雲、マルタ会談、オリンピックのワンシーン。代々繰り返されてきた、一族の男たちを通過する不思議な体験。それはいったい、何を意味するのか。祖父のつぶやいた言葉を手がかりに、わたしは色と呼ばれる現象を考える。いまの世界に失われた何かを描き出す「オールドレンズの神のもとで」ほか、記憶や風景に抱かれたシーンを描き出す、彩り豊かな掌編小説集。
色々な媒体向けに書いた短編やショートショートを集めたもの。3篇は既読だった。色々な話があって、どれも良かったけど、冒頭の「窓」が特に素晴らしかった。かなり短い話なのだが、きちんと奥行きや情感があって余韻も残す。さすが堀江敏幸だな。