リアル書店の内情が読みたかったのだが、前半はほとんど愚痴と僻みに終始している。変な客が多いことや「司馬遼太郎」が読めないアルバイトがいることなど、笑い話にしてくれればいいのだが、どうもトーンが愚痴っぽいんだよな。変な客や理不尽なクライアント、常識のない新入社員なんかは別に書店業界だけじゃなくてどこの業界にもいるからねえ。
読むのよそうかなと思い始めたところで、第3章「開店準備は大変です」に突入するとこれが面白い。ジュンク堂新宿店オープンの話なのだが、大型書店オープンの裏側というのは素人の想像を超えていて興味深かった。第4章「書店員になった理由」での、ジュンク堂の若手社員へのインタビューが第3章に輪をかけて興味深かった。中でも理工書担当の矢寺範子さんのコメントには感動した。理工書の専門分野の情報をどうやって集めるのかという著者の問いに対してこう答えている。
お客さんが教えてくれます。私は、書店員は謙虚であれ、と教えられました。お客さんのほうが専門家だと。お客さんは専門性の高い特殊な本を私たちに問い合わせてくれます。だから、必死でお客さんから教えてもらいます。取次を通さない本の版元を教えてもらって、いろんな本を直接に仕入れました。今の棚はお客様が作った棚ともいえる、と思います。
年寄りの愚痴に終始しがちな本書において、宝石のようにきらめくコメントである。ジュンク堂にはまだ行ったことがないけど、一度行って理工書の階の棚を見てみたいを思わせてくれた。
書店繁盛記 | |
田口 久美子 ポプラ社 2006-09 売り上げランキング : 62915 おすすめ平均 本屋という森で書棚という木を育てる人たち 本と一緒に希望を 書店論の白眉 Amazonで詳しく見る by G-Tools |