「読みながら何度も心が震えた」という池上冬樹氏の大絶賛を朝日紙上で目にしてしまっては、読まずにはいられない。
一読、ざらりとした手触りを感じ、これは一筋縄ではいかないぞということがよく分かる。著者自身が元警察官というだけあって、現場の描写や警察官たちの心情の表現はリアルを極めている。5人の女性警官を主人公にした独立した短編集であるが、それぞれが絡み合っていることを考えれば連作短篇集と呼ぶこともできる。一篇一篇はまるで茨のようだ。読み進むにつれ、読み手の胸にその茨の棘が刺さっていく。その覚悟がなければ、本書は読まない方がいいだろう。
MWA賞最優秀短篇賞受賞の「傷痕」も素晴らしかったが、サラ・ジェフリーズを主人公とした「わたしがいた場所」が最後の一篇にしてベストだろう。その前の短篇での事件から逃れるようにサラはニューメキシコへ車を走らせる。誰も知り合いのいない、とあるちっぽけな町で空き家を借り、元々いた灰色猫とともにそこに住み始める。周りの住民(ほとんどがメキシコ人)たちも最初はおずおずと彼女に接しているが、徐々に心を開き始める。それとともにサラ自身もしだいに過去の呪縛から解き放たれ、ある神秘的な体験を経て、赦しを得ることになる。ここに至って読者はハードボイルドな警官小説が「文学」に昇華する現場に立ち会うことになるだろう。
エルモア・レナードをして「彼女が書くものはこれから全部読む」と言わせしめただけのことはある。
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