植草甚一、都筑道夫、清水俊二……。一九五〇年代から六〇年代にかけて、小説の翻訳を生業とする個性豊かな面々が現れた。直木賞受賞作「遠いアメリカ」と同時期を舞台に、出版界の片隅に生きる人々の姿を、憧れに満ちた青年のまなざしから描いた自伝的短篇集。巻末にエッセイ「二十代の終わりごろ」他一篇を付す。
一応フィクションだが、ほぼ自伝のようだ。登場人物も名前は変えてあるが、概ねモデルがいる。月給だけでは生活できなくて、下訳のアルバイトをしている主人公。でも、恋人(のちに妻となる)との生活は貧乏だけど楽しそうだ。そういう時代に暮らしたいかと、いま問われれば、まあ無理だろうけど、でも何だかとても羨ましかった。