インタビュー、受賞の挨拶、海外版への序文、音楽論、書評、人物論、結婚式の祝電――。初収録エッセイから未発表超短編小説まで満載の、著者初の「雑文集」!
「雑文集」というだけあって、雑多な文章の寄せ集めである。短いものが多いのだが、なかには結構長くて読み応えのある話もあった。特に音楽論に読み応えがあったね。
その中の一編である「余白のある音楽は聴き飽きない」に印象的な文章があった。ちょっと長いが引用する。
僕にとって音楽というものの最大の素晴らしさとは何か? それは、いいものと悪いものの差がはっきりわかる、というところじゃないかな。大きな差もわかるし、中くらいの差もわかるし、場合によってはものすごく微妙な小さな差も識別できる。もちろんそれは自分にとってのいいもの、悪いもの、ということであって、ただの個人的な基準に過ぎないわけだけど、その差がわかるのとわからないのとでは、人生の質みたいなものは大きく違ってきますよね。価値判断の絶え間ない堆積が僕らの人生をつくっていく。それは人によっては絵画であったり、ワインであったり、料理であったりするわけだけど、僕の場合は音楽です。それだけに本当にいい音楽に巡り合ったときの喜びというのは、文句なく素晴らしいです。極端な話、生きててよかったなあと思います。
この話は実によく解る。私の場合はワインであったり、料理であったりするわけだが。ワインや料理が過去に飲んだもの食べたものよりもどう美味しいのか、どういう味の違いがあるのかが解るというのは実に楽しい。細かい差異が解るようになればなるほど、どんどん楽しくなる。
当然、この「雑文集」にも収録されていないものもあるだろう。実際、中島らもの『啓蒙かまぼこ新聞』のあとがきは収録されていなかった。それを知っていることにマニア的な優越感をちょっと感じる。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01/31
- メディア: 単行本
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