恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ(川上弘美)★★★★☆ 11/11読了

小説家のわたし、離婚と手術を経たアン、そして作詞家のカズ。
カリフォルニアのアパートメンツで子ども時代を過ごした友人たちは、
半世紀ほどの後、東京で再会した。
積み重なった時間、経験、恋の思い出。
それぞれの人生が、あらたに交わり、移ろっていく。
じわり、たゆたうように心に届く大人の愛の物語。

コロナ禍を描いた小説やエッセイは結構読んできたが、その中でも本作は、私が読んだ中では、ベストと言える。ご丁寧に年月や感染者数まで提示されているのは、まさに禍中での連載だったからだろう。著者自身の分身である主人公の女性と、カリフォルニアで子ども時代を過ごした頃からの友人たちの交遊録だが、主人公が60歳を超えているので、友人たちも同じような年頃である。エッセイのようなフィクションの塩梅が絶妙だし、話が面白いうえに深みと軽みがある。いやあ、川上弘美さすがだな。私もあんな飲み友達が欲しい。