クラッシュ ★★★★☆ 横浜ニューテアトル

ロサンゼルス。ハイウェイで一件の自動車事故が起きた。日常的に起きる事故。しかしその“衝突”の向こうには、誰もが抱える“感情”の爆発が待っていた。ペルシャ人の雑貨店主人は護身用の銃を購入し、アフリカ系黒人の若い2人は白人夫婦の車を強奪。人種差別主義者の白人警官は、裕福な黒人夫婦の車を止めていた。階層も人種も違う彼らがぶつかり合ったとき、悲しみと憎しみが生まれる。その先に、あたたかい涙はあるのだろうか。

上映時間:112分
監督:ポール・ハギス
脚本:ポール・ハギス 、ボビー・モレスコ
出演:サンドラ・ブロックドン・チードルマット・ディロンジェニファー・エスポジートウィリアム・フィクトナーブレンダン・フレイザー

ミリオンダラー・ベイビー』で劇場用映画の脚本家デビューを果たしたポール・ハギス初監督作品。アカデミー賞にも複数部門でノミネートされている。【追記】作品賞、脚本賞を受賞!

群像劇の一種と言っていい。一見、バラバラに見える様々な人々の人生が少しずつ交錯している。根底に流れる一つの軸は「人種差別」だ。黒人vs白人という単純な二項対立ではなく、アジア系、メキシコ系など多種多様な民族が共存しているために一筋縄ではいかない。さすが人種の坩堝アメリカである。もう一つの軸は「銃」である。それにしても銃を携帯することを法律で認められているアメリカのなんと怖いことか。誰にでも誰かに撃たれる可能性があり、また誰かを撃ってしまう可能性がある。この映画は実にリアルに作られているので、この銃の怖さが身に沁みる。
そして最後の軸は「みな誰かと繋がりたがっている」ということである。この映画ではそれをたまたま自動車の衝突事故(クラッシュ)で表している。人と人との繋がりは決して幸福なものばかりではなく、憎しみを介した繋がりもある。しかし、たとえどんな形であれ、人生には人と人との繋がりは不可欠である。その様々なケースでの人と人の繋がりが実にリアルに描かれていて、観ていてぐいぐい引き込まれる。
この種の映画ではよくある手法だが、ラストシーンが冒頭のシーンにつながっている。つまり、見始めたときは意味の分からなかった冒頭のシーンが最後になってようやく意味が分かるのだ。そうすると、ラストシーンで映画は終わるのだが、観ている者にとっては、そこが冒頭のシーンになり、もう一度頭の中で最初から映画を反芻することになって、ああだったのか、こうだったのかと色々考えさせられるのだ。(場合によってはもう一度映画を観たくなる。それが作り手側の狙いなのかも知れない・・・)