こまばアゴラ劇場国際演劇交流プロジェクト2023 KOTATSU @シアタートラム

2013年に『愛のおわり』日本版のクリエーションをしていたとき、日本語に直訳すると「人生は苺のひとカゴではない」という台詞があって、どう訳すか皆で悩んだことがある。平田オリザが「人生はこたつを囲んでみかんを食べることではない」という表現をみつけてくれたのだが、その時に出てきた「こたつ」という言葉が強く印象に残った。「こたつ」は、すべてがうまくいく平穏な家族の団欒の時間の象徴で、とてもいいなと思い、その時以来、いつか青年団の俳優のために作品を書くときには「こたつ」を中心に据えたいと考えていた。
世界中どこでも現代社会の問題となっているSNSによって、静かでゆったりした親密な時間が不安や脅威に侵食されてゆく、そういった作品が出来上がった。日本での上演を契機に、フランスをはじめとするヨーロッパなど世界中の観客がこの作品を観ることができるようになることを心から願ってやまない。(パスカル・ランベール)

パスカル・ランベールは私と同じ1962年の生まれ。もう20年近くにわたって、色々な共同作業を行ってきた。パスカルの作品は、何度も日本で上演されてきたし、その多くに私は翻訳協力や共同演出という形でかかわってきた。この『KOTATSU』は、そんな二人の現時点における一つの到達点だと思っている。そして青年団の俳優、しかもその多くは、これまでパスカル作品に出演してきた俳優たちのために、当て書きされた初めての作品だ。このこと一つをとってみても本作が、これまで行われてきたあまたの日仏共同制作から、一歩、新しいステップを踏み出していることがわかるだろう。
2021年、こうして私たちは『KOTATSU』の制作に取り組んだが、コロナの影響で上演はきわめて限定的な形となった。今回は満を持しての再チャレンジとなる。フランスには「還暦」という言葉はないけれど、再生の時期を迎えた二人の集大成をご覧いただきたい。(平田オリザ

作・演出:パスカル・ランベール 
共同演出・日本語監修:平田オリザ 
翻訳:平野暁人

出演
山内健司、兵藤公美、太田 宏、知念史麻、申 瑞季荻野友里
佐藤 滋、森 一生、名古屋愛、淺村カミーラ

舞台は全面和室で中央に横長の大きなこたつがある。大企業の社長の家の元日の話で、女性も男性も大体着物姿というのがいいね。一年で最も穏やかな日のはずが、この企業が絡んでいる、とある事故を巡ってSNSが炎上して、元日が修羅場に変わっていく。
俳優がみな手練でしかも当て書きなので、話にぐっと引き込まれる。元日の集まりの中にSNSや人種の話など、現代の様々な問題を盛り込んでいるのも巧みだ。
こんないい芝居がシアタートラムでは3日間4ステージしか上演されなかったというのがもったいない。せっかくあんないいセット組んだのに、それももったいない。