脇谷問題再び

 華やかな巨人の本拠地開幕戦で、ひとり、打席に立つ度、ブーイングを浴びる男がいた。脇谷亮太だ。

 話は4月20日にさかのぼる。甲子園での阪神―巨人戦。7回2死一、三塁でブラゼルの飛球は二塁後方へ。脇谷が手を伸ばしたが微妙なプレーになった。判定はアウト。VTRを見ると落球しているように映ったから、阪神ファンは納得しない。

 しかし、まず、はっきりさせておかなければいけない前提がある。野球というスポーツに「誤審」は存在しない。野球規則は「審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから(中略)その裁定に対して、異議を唱えることは許されない」と定めている。ビデオ判定は本塁打以外では認められていない。

 この時点で、脇谷は何ら責められる必然性はない。ただ、試合後、「VTR? テレビの映りが悪いんじゃないですか」と話したと一部で報道された。だとすれば、この発言は余計だった。いまだに続くブーイングは、気持ちのいいものではない。(編集委員・西村欣也)

この話を蒸し返すつもりはなかったのだが、朝日新聞に載った西村氏の署名記事を読んで思うところがあった。
まず、「VTRを見ると落球しているように映ったから」とあるが、「ように」ではなく明らかに落球している。
それから、「野球というスポーツに「誤審」は存在しない」と言っている点だ。確かに一度アウトになったものが覆ることはないのだろう。しかし、あれは明らかに落球しており、判定はアウトで公式記録がアウトになったとしても、審判のミスはまぎれもない事実である。だから、ではどうしたらよいのかということを考える必要があると思う。凡フライだと思っても常に捕球が確認できる位置に審判がいるようにするとか(しかもできれば複数の審判が)、ホームラン以外でもビデオ判定を導入することも検討するとか。もし、「審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから(中略)その裁定に対して、異議を唱えることは許されない」という野球規則に胡坐をかいて、ミスをミスと認めずに技量向上に努めないのであれば、野球界はダメになると思う。そこら辺のことを西村氏が何も書いていないのが残念だ。
最後に「脇谷は何ら責められる必然性はない」と「いまだに続くブーイングは、気持ちのいいものではない」という文章だ。脇谷のプレーに関しては様々な意見があることは承知している(プロなら自分からエラーを申告するものはいないとか、じゃあ、サッカーはどうなるんだとか、隠し球はどうなんだとか・・・)。そういうことを全部ひっくるめたとしても、自分では落球しているのが分かっているのに、とっさにキャッチしたことをアピールしたのは、心根の部分で許しがたいものがある。だから、阪神ファンは脇谷に対してブーイングを浴びせるのだ。あの脇谷のプレーは十分にブーイングに値する。「いまだに続くブーイングは、気持ちのいいものではない」と西村氏は書いているが、では脇谷のプレーは気持ちのいいものだったのだろうか。少なくとも今シーズンいっぱいブーイングされても仕方のないプレーだと思う。
今までの西村氏の記事は大体頷けるものが多かったのだが、今回ばかりはちょっと引っかかった。
(なお、この件に関して西村氏以外の人と議論するつもりはありません。これはあくまでも私の一つの意見です。)