翻訳の基本―原文どおりに日本語に(宮脇孝雄)★★★☆☆ 3/6読了

<原著者が書いたとおりに訳す> この、当然のことが、いかに難しいか−−翻訳のベテランが、数多くの実例を挙げながら、<なぜ間違えてしまうのか><どうすれば間違いを減らせるのか>を指導します.翻訳家志望者の方々は、一項目ごとに「そうか!」と驚かれることでしょう。

第1章「翻訳の基本」、第2章「翻訳・要注意単語集」、第3章「訳文を改善する」という構成だが、私には第2章が特に興味深かった。一見簡単な単語ほど要注意ということがよく分かる。
一例として「polite, politely」の項を要約・引用してみよう。

polite, politelyを常に「丁寧」「礼儀正しい」と訳すのはやめたほうがいいのではないだろうか。

例えば、パーティーなどで女性二人が会話をしている場面で、一方が、
We're going away, you see.
と言ったとする。
これは「ご存知でしょうけど、わたくしたち、旅に出ますの」という程度の意味。
それに対してもう一人の女性(仮にメアリーとする)が、
Where are you going?
と尋ねたとする。これは
「どちらにいらっしゃいますの?」と訳しておけばよい。しかし問題はその部分が、
"Where are you going?" Mary asked politely.
と書かれている場合だ。
これは「〜と、メアリーは礼儀正しく尋ねた」と訳しても間違いではない。
ところが、ここでの「礼儀正しく」は「礼儀正しくドアをノックした」というときの「礼儀正しく」とはやや意味合いが違う。
politeという言葉には「格別、興味はないが、社会一般の礼儀作法から外れないために、何かをしたり、発言したりする」というニュアンスもあり、メアリーさんは、話し相手の女性がどこに行こうと知ったことではないのだが、ハッキリそう言うと角が立つので、興味がある振りをしているだけかもしれないのだ
そのニュアンスを掘り下げれば、上の文は、


「まあ、どちらに?」失礼にならないように、メアリーは話を合わせた。


と訳せるのである。


「なるほどなあ」と思わず唸ってしまった。

翻訳の基本―原文どおりに日本語に
翻訳の基本―原文どおりに日本語に宮脇 孝雄

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