千年の祈り(イーユン・リー)★★★☆☆ 8/15読了

著者のイーユン・リーは1972年、北京生まれ。そのリーが英語で書いて2005年にアメリカで出版されたのが本書である。本書は第1回フランク・オコナー国際短篇賞受賞他数々の賞に輝いている(ちなみに第2回のフランク・オコナー賞受賞者が村上春樹である)。
英語で小説を書くアジア系の作家の活躍はもはや一つの大きな潮流になりつつある。インドのジュンパ・ラヒリしかり、タイのラッタウット・ラープチャルーンサップしかり。きっとこれからも続々と登場してくることだろう。
本書には表題作を含めて10の短編が収録されている。北京大学を卒業後渡米し、アイオワ大学で学んだ著者の体験を踏まえたと思われる作品が多いが、小学生の男の子に恋をすることになる林(リン)ばあさんを描いた「あまりもの」や代々宦官を宮廷に送り続けてきた町の物語である「不滅」など、体験だけにとどまらないバラエティも備えている。
そんな中で私が一番好きな作品は、ミス・カサブランカと呼ばれる独身教師とその玉子売りの母の物語。邦題は「市場の約束」であるが、原題は「Love in the Marketplace」である。主人公の三三(サンサン)には結婚を約束した土(トウ)という男性がいたのだが、この土は旻(ミン)という三三の友人と結婚してしまい今はアメリカにいる。実はこの結婚は旻をアメリカに行かせるための策略としてのものだったのだが(しかるのちに土は旻と離婚して中国に戻ってくるはずだった)、土は三三との約束を破りそのまま旻とアメリカで暮らし続けてしまったのだ。その土が10年経った今頃になって旻と離婚して中国に帰ってくるという。三三の母親は土のことを許して土と一緒になるべきだと三三を諭す。しかし、三三には三三の「まもるべき約束」がある。今さら土と結婚など出来ない。そんな折り、市場にある男がやってくる。この男こそ「約束とは何かを知っている人」だったのだ。
ラストはやや唐突な感もあるが実に鮮烈だ。最後の2行には思わず息を呑んだ。イーユン・リーには、一本筋の通った信念があることがこの作品から如実に伺われる。
ジュンパ・ラヒリやラッタウット・ラープチャルーンサップに比べると、イーユン・リーの作品には自身が生まれ育った中国という国への感情(正・負いずれも)が色濃く現れている。次回作は文化大革命後の中国を舞台にした作品だそうなので、きっと祖国を正面から見据えた作品になるのだろう。

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