世にもおもしろい狂言(茂山千三郎)★★★★☆ 1/30読了

現役バリバリの狂言師である茂山千三郎による指南本。新書なので、例えば『狂言にアクセス』(小野幸恵著)のようなカラー写真はないが(白黒の写真は結構ある)、実際に演じている狂言師の文章だけに深みがある。深みがある一方で、ラジオのパーソナリティを務めたりして「日本一よくしゃべる狂言師」を名乗るだけあって、その語り口は実に軽妙だ。
狂言の歴史から始まって、狂言の決まりごと、キャラクターの分析(「太郎冠者」ってどんな人?)、面や小道具の説明など実体験もまじえて過不足なく解説してくれる。この本を読めば一通りのことは分かる仕組みだ。私は狂言初心者なので「へぇ〜」と思う話も多かったが、なかでも「直面(ひためん)」の話が印象に残った。狂言は素顔で演じるのに、「面」という言葉を付けて「直面」と呼ぶ。これはなぜなのかを千三郎はこう説明している。

僕ら狂言師は、「顔芸をしてはいけない」と教えられます。顔芸とは、驚き、不安、喜びなど、感情を顔だけで表現することです。気持ちが入れば、当然表情に出ますから、何も無表情で演じろというわけではなく、これは「小さい芸をするな」という意味なんだと思います。狂言はもとも屋外演劇ですから、「体全体で大きく表現しろ」ということなのでしょう。


仕草や喋り方など、狂言には古くから伝わる「型」がある。俳句や短歌もそうだが、制限があってこその飛躍もある。型を守りつつも新しいことにチャレンジする。茂山千三郎や野村萬斎を始めとして、新しいことにチャレンジする狂言師も増えているようだ。
私のように何も知らずにとりあえず観に行っちゃえというのも一つの手だが、この本を読んで、押さえるべきところは押さえてから観に行くと、より楽しめること請け合いだ。
狂言って、結構おもしろいよ。

世にもおもしろい狂言
茂山 千三郎著
集英社 (2006.12)
通常24時間以内に発送します。