柿喰ふ子規の俳句作法(坪内稔典)★★★☆☆ 2/7読了

正岡子規と聞いて、人は何を思い浮かべるだろう。「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の句だろうか。それとも、晩年は寝たきりになりながらも、草花を愛で、『墨汁一滴』や『病床六尺』をものしたことだろうか。あるいは、確か野球が好きだった人でしょう、という人もいるかも知れない。そんな正岡子規の俳句作法ひいては人生作法を紹介しているのが、俳人坪内稔典による本書である。
正岡子規は生前に自分の墓誌銘をしたためていて、その末尾に「月給四十円」と書いているのだが、なぜに「月給四十円」と書いたのかという逸話や、「柿くへば」の句にはもとになる夏目漱石の句があったという話など、興味深い話には枚挙にいとまがない(一番驚いたのが、ひと月に家賃と同じくらいの金額分の刺身を食べていたことかな)。
いま、我々がこうして書いている文章の基礎を作ったのも子規だったということをご存じだろうか。実は私も知らなかった。以下は、『子規全集』第十三巻の解説にある司馬遼太郎の文章である。

私どもが夏目漱石正岡子規、もしくは森鴎外を所有していることの大きさは、その文学よりも以前に、かれらが明治三十年代においてすでにたれもが参加できる文章日本語を創造したことである。文章を道具にまで還元した場合、桂月も鏡花も蘇峰も一目的にしか通用しないが、漱石や子規の文章は愚痴も表現できれば国際情勢も論ずることができ、さらには自他の環境の本質や状態をのべることもできる。

寝たきりになってしまった境遇を嘆くだけではなく、逆にその境遇を楽しもうとした子規の生き方には勇気づけられるエピソードが多い。『墨汁一滴』や『病床六尺』を読んでみたくなったな。

柿喰ふ子規の俳句作法
柿喰ふ子規の俳句作法坪内 稔典

岩波書店 2005-09-16
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