海外ミステリに関してはかなり読んできたつもりだが、不覚にもP・G・ウッドハウスの名前は聞いたことがなかった。おそらく今まであまりきちんとした形で紹介されてこなかったのだろう。
主要な登場人物は4人。天才執事ジーヴズと気だてはいいがおっちょこちょいの若主人バーティ、バーティの学生時代からの友人であるビンゴ、そしてバーティの天敵アガサ叔母。連作短篇のような形を取っているが、基本的には一話完結である。パターンも大体決まっていて、惚れっぽいビンゴが誰かを好きになって、バーティに泣きついてくる話かバーティがアガサ叔母に無理難題を押しつけられそうになる話かのどちらかである。そして、そのどちらでも最後にはジーヴズが綺麗に解決してしまうのだ。殺人事件などの血なまぐさい事件は一切起こらない。ほのぼのとしたユーモア・ミステリである。
似たような話が続くし、あまり刺激的な事件は起きないので、途中で飽きるかなと思ったが、これがどっこい結構飽きずに読み進められる。それはなぜか。1つは作者のユーモア感覚が非常に優れていること。特に独特の比喩表現が素晴らしい。もう1つは翻訳文が非常に平易で読みやすいということ。訳者付言で、以前の翻訳、なかでも『世界大ロマンス全集』のジーヴズものはパパンパンと張扇の音が聞こえてくるような名調子だったが、というような記述に続けてこう書いている。
本訳の行き方はその正反対である。張扇を鳴らさない、こっちから笑い出さないで原文の春風駘蕩たるユーモアを伝えること、それが我々の最大課題であった。
せわしない世の中、たまにはこういった本を読んで心に余裕を持ちたいものである。
ジーヴズの事件簿 P・G・ウッドハウス選集1 | |
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