まっとうな人生(絲山秋子)★★★☆☆ 8/25読了

名古屋出身の「なごやん」と繰り広げた九州縦断の脱走劇から十数年後――。富山県のひょんな場所でなごやんと再会した「花ちゃん」。夫のアキオちゃんと娘・佳音の成長を愛おしむ日々に、なごやん一家と遊ぶ楽しみが加わった。しかし、新型コロナ・ウイルスの感染拡大でその生活が一変!! 押し寄せる不安の波に押しつぶされそうになりながら、花ちゃんが出会ったもうひとりの自分とは?

『逃亡くそたわけ』でともに脱走劇を繰り広げた花ちゃんとなごやんが富山で再会する。しかもお互い家族持ちになって。『逃亡くそたわけ』は疾走感あふれる話だったが、本作は地に足のついた生活感あふれる話だ。コロナ禍での日常という点では長嶋有の『ルーティーンズ』にも似ているが、『ルーティーンズ』にあったような「のほほん感」はあまりなく、現実的な重みを伴って描かれている。それでも、時々家族でドライブに出掛けたりするので、富山や能登の観光案内風にもなっている。「生きることはほんとうに面倒くさい」。まさにそのとおりだと思う。