今はもういない者たちの、一日一日がこんなにもいとしい。
傷心のOLがいた。秘密を抱えた男がいた。
病を得た伴侶が、異国の者が、単身赴任者が、
どら息子が、居候が、苦学生が、ここにいた。
――そして全員が去った。それぞれの跡形を残して。
主人公は「第一藤岡荘五号室」。といっても部屋が喋るわけではない。このアパートの一室に暮らした歴代の住民たちを定点観測していくのだ。私はこういう設定の小説を初めて読んだ。そして、さすが長嶋有だとえらく感心した。変わった間取りの部屋を歴代の住民たちがどのように使ったかを細かく描写するところも面白いし、それぞれの時代を反映した懐かしのテレビ番組やCMの話などは長嶋有の独壇場だろう。設定はマニアックだけど、意外にもほろ苦い人情ストーリーになっており、映画化しても面白いんじゃないかな。「三の隣は五号室」というタイトルも秀逸だ。
三の隣は五号室 | |
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