はなうた日和(山本幸久)★★★☆☆ 1/26読了

ごく普通の人々のごく普通の日常を切り取った物語。毎日の生活に疲れている人にちょっと元気を与えてくれるような前向きの話が多い。もう既読感はバリバリだが、ちょっとした表現とかが微妙に巧い。
世田谷線沿線が舞台という共通項を持った短編集だ。世田谷線以外にも、例えばAという話に出ていた和菓子屋がBという話にも出てきたりといった繋がりがあるのだが、私にはこの繋がりはむしろうるさく感じた。無理にそんなことしなくても世田谷線繋がりだけで十分なのに。
子どもからおばあさんまで色々出てくるし、どの話も面白いのだが、私のお気に入りは「普通の名字」という一編。主人公はミトコという子ども2人のお母さん。「ガヤガヤ雑貨」という雑貨屋でバイトをしている。離婚していて女手一つで子どもたちを育てているのだ。そんなミトコに「ガヤガヤ雑貨」の共同経営者の一人の柴谷さんがやたらに見合いを薦めてくる。一方でミトコは息子で小学生の友彦とある勝負をしている。それは、来週の土曜日までに友彦に九九を覚えさせる代わりに自分は友彦お気に入りのアニメ『パタラ王』の主題歌(歌詞は登場キャラの羅列。但し128匹分)をそらで唄えるようにしないといけないのだ。見合いの結末、そして友彦との勝負の行方は読んでのお楽しみだが、ミトコと子どもたちの関係がとてもほのぼのとしており、また見合い相手との珍妙なやりとりもおかしい。終わり方も絶妙で、爽やかな読後感を残してくれる。
(以下は余談)
山本幸久の本は初めて読んだが、同じ「小説すばる新人賞」出身の三崎亜記よりも話の完成度は高い。今後もコンスタントに良い作品を発表してくれると思うが、これ以上の伸びもあまり期待できない感じもする。むしろ現時点では荒削りの三崎亜記の方がゆくゆく大化けするかも知れない。

はなうた日和
はなうた日和山本 幸久

集英社 2005-07
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おすすめ平均 star
starじわじわと暖かく、切ない「はなうた」な幸せ
starもっと先が読みたい!
starいい感じの連作短編集です

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