くらやみの速さはどれくらい(エリザベス・ムーン)★★★☆☆ 8/20読了

製薬会社に勤め、幸せな日々を送っていた自閉症のルウは、画期的な治療法があると知らされる。治療が成功したら、いまの自分ではなくなってしまうのではないかと悩み…。2004年ネビュラ賞受賞作。

人はややもすると自分とは違う種類の人間がいることを忘れがちである。
ある種の人は日本には日本人しかいないと考えがちである。そうではないと頭では判っていても。
ある種の人は人類には白人しかいないと考えがちである。そうではないと頭では判っていても。
ある種の人は周りの人はみな健常者であると考えがちである。障害者もいると頭では判っていても・・・。

本作は自閉症の主人公ルウ・アレンデイルの視点でそのほとんどが描かれている。自閉症者からみた健常者<ノーマル>の描写を読んだときに<ノーマル>って一体どういことだと自問せずにはいられない。一体自閉症者と健常者のどちらが本当にノーマルなんだと。
別に本作はノンフィクションではないので、物語としての面白さもきちんとある。とくに、ルウのフェンシング仲間のルウを思う気持ちには胸を打たれた。果たして、ルウは治療を受け入れるのか否か・・・。「アルジャーノン」ほどわかりやすく泣けるラストではないが、実に切なくなる読後感である。

他者との差異を再認識する意味で読んで良かった一冊である。

くらやみの速さはどれくらい
4152086033エリザベス ムーン Elizabeth Moon 小尾 芙佐

早川書房 2004-10
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