ヨーロッパ企画 第33回公演「ビルのゲーツ」

カードをかざすなり差し込んだりしてゲートが開く瞬間、というのが好きなんです。Suicaカードを改札機にあてがう瞬間はつい颯爽としてしまいますし、ホテルでカードキーをもらって、それをドアの外で黒い読み取り部分にかざすときもエリートみたいな気分になります。横に差し込むタイプや縦にスッと通すタイプもありますね。ETCで料金所を通れたときや、家電量販店でけっこう買い物をしたので地下駐車場のゲートを開けてもらえたときなんかも「よしよし」という顔をしています。自分は運転できないにもかかわらず、です。そんな僕が羨ましいのは、たとえばタワービルっぽい会社に吸い込まれていく人たちが首からぶら下げているIDカードです。あれで何かしらのゲートをあけてビルの中に入っていっているのだとしたらもう。僕の実家は町工場で、戸は常に開けっ放しでカギという観念が薄かった、というのが影響しているのかもしれません。カギっ子に憧れたものなあ。「ビルのゲーツ」というさっきつけたみたいなタイトルにはそんな深い企図が込められていると思ってください。ゾロゾロした群像会話劇になる予定です。(上田誠)


作・演出=上田誠

出演=石田剛太 酒井善史 角田貴志 諏訪雅 土佐和成 中川晴樹 永野宗典 西村直子 本多力
/岡嶋秀昭 加藤啓 金丸慎太郎 吉川莉早

舞台上にはSFチックな大きなゲートがあって、横にカードリーダーがある。その大きな会社のCEOに呼ばれたある会社の社員たちがカードリーダーにカードをかざして中に入ってみると、中には左方向に昇る階段があるだけ、そしてその階段を登って(裏を回って)、表に出てくると、当然ながらまた同じゲートがあり、ビルの表示階数が1つ繰り上がる。構造的には映画「キューブ」と同じである。
登るにつれて、問題を解かないとゲートを開けられないようになってくる。そこを工夫して解いていくのがこの芝居の1つのキモだ。
途中で他の会社の人たちと会って、反目しつつも結局は協力していくことになったり、イエスかノーしか答えない「イエス・ノー」少女が出てきたりと、観客を飽きさせないようにはなっている。
まあでも、これは芝居というよりは大掛かりなコントだよね。結局最後にどうなるのかというのが焦点になってくるのだが、そこは肩すかしだった。オチを思いつかなかったのかもしれない。
俳優たちの掛け合いは面白かったし、私と同じ苗字の俳優が頑張っていたのは嬉しい限り。