グリング第14回公演「ヒトガタ」 新宿THEATER/TOPS

消えたくない。
40を前にそう思った。
人生も折り返しを過ぎれば、大切な人の何人かを失う。
思い出なんぞを口にすると
その人が安くなってしまう気がして
あの時
消費されない物語を作りたいと思った。
消したくない。
この作品を再演しようと決めたのは
多分それが一番の理由だ。
作・演出 青木豪


出演
中野英樹  弘中麻紀(ラッパ屋)  杉山文雄  
萩原利映  高橋理恵子演劇集団 円)  遠藤隆太  石井英明(演劇集団 円
辻親八  井出みな子(演劇集団 円)  歌川椎子  

新宿THEATER/TOPSは、2000年にラッパ屋の『ヒゲとボイン』を観て以来。こんなに狭かったかね。まあおかげで後ろの方の席だったけどそんなに観にくくなかった。段差もあったし。完全に満席で、当日券入場者もあとからどんどん入れていた。
グリングの芝居を観るのは初めて。グリングの存在自体もつい最近まで知らなかった。内容もよく知らずにチケットを取ったが、人形の頭を作っている家を舞台にした通夜の席での話だ。何を隠そう私の実家は「人形の町 岩槻」にある。稽古場日誌ブログで杉山文雄が「明日は岩槻まで今回の芝居の取材先まで見学に!」と書いていた。これも何かの縁だろうか。
通夜の話と言えば、ラッパ屋の『妻の家族』もそうだった。弘中麻紀は稽古場日誌にこう書いている。

今回はお通夜の晩のお話なのですが、私、今年頭からの3本の芝居の舞台衣裳は、すべて喪服です…。ラッパ屋のスズキに「君、喪服女優だねえ」と言われました。なんかエロい感じします。『お葬式』みたいです。

ところが弘中麻紀はちっとも色っぽくないんだよなあ。その点、高橋理恵子は色っぽかったなあ。稽古場日誌をずっと読んでいると高橋理恵子も面白いことを書いていた。

抜き稽古中、椎子姉さんは装置の裏で「少しずつ追い込んで帰すか寝かすかしないとさ」って台詞を5万回くらい練習してました。「帰すか寝かすか」が言いにくいらしく、ラップのように呪文のように繰り返す姉さん。そして、いざ舞台に出て来たらいきなり「少しずつ」のとこでカミまくり。さすがです、姉さん。

芝居観てないと何を言っているか分からないと思うが、観た後でこれを読んだら大笑いしてしまった。芝居の内容のことを全然書いてないけど、まだ公演が終わっていないので話の筋には触れません。でも、かなり良かったことは間違いなし。笑えて泣けてというところはONEOR8と同じだけど、ONEOR8よりも脚本に深みがあって、しっとりした感じがする。ラストが予定調和的なところだけがちょっと残念。もう一捻り欲しかったかな。それから、主人公の幼なじみで吃音症の役を演じた杉山文雄は、儲け役だったねえ。吃音症の方には申し訳ないが、彼のセリフ回しには大笑いさせてもらいました。

グリングの第15回公演『Get Back!』(仮)は11月下旬から12月上旬にかけて「ザ・スズナリ」で行われるらしい。今回の芝居がかなり良かったので、これも観に行きたい。弘中麻紀は、10月30日から始まるONEOR8の『ゼブラ』に出演するらしい。ONEOR8のサイトで調べたら再演のようで「母の死を目の前に右往左往する4姉妹」という一行紹介があった。こんなんばっかりだな弘中麻紀。でもこの芝居も観たい。前回のONEOR8は女優陣が出てなかったからね。

【追記】
今頃気付きました。芝居の中で主人公のお父さん役の辻親八が話していた赤いつづら折りの橋がある公園って岩槻城址公園(我々は「お林公園」と呼んでいる)のことじゃないか。舞台はまさに岩槻だったんだな。