沖で待つ(絲山秋子)★★★☆☆ 4/18読了

「おまえさ、秘密ある?」住宅設備機器メーカーに入社して福岡支社に配属された同期の太っちゃんと女性総合職の私。深い信頼と友情が育っていく。そして太っちゃんの死。太っちゃんとの約束を果たすべく彼の部屋にしのびこむ。選考委員会で高い評価を得た第134回芥川賞受賞作。他1篇併録。

『袋小路の男』の時もそうだったけど、絲山秋子の小説は多分に自伝的要素が含まれているので、どうしても主人公の女性に絲山秋子の顔がかぶってきてしまって困る。表題作であり、芥川賞受賞作でもある「沖で待つ」は同期入社の社員との友情(?)の話である。
私の会社は小さな会社なので、新入社員は毎年二人ずつしか入らなかった。ゆえに私の同期は一人しかいない。その女性は入社数年後、一年後輩の男性社員と結婚して辞めた。会社の人間の中で一緒に飲んで楽しいと思えるのはその人くらいだったので、辞めてしまったときはちょっと寂しかった。それ以来一緒に飲んだことは一度もない。というか年賀状をやりとりするだけで会ってさえいない。また一緒に飲んで昔話でもしたいなと時々思う。
な〜んてことを読みながら考えていた。特に次の文章は印象に残る。

仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。
同期ってそんなもんじゃないかと思っていました。

沖で待つ」は「です・ます」体がいい味を出してるね。

もう1つ「勤労感謝の日」という短篇も収録されている。36歳の無職の女性がお見合いをする話だが、女性の本音バリバリで、面白けどちょっと引いたな。ラストをしんみりまとめちゃうところがつまらない。

絲山秋子は上手いのは認めるが、「だから何だ?」という気がしないでもない。『袋小路の男』の時にもそう思ったが、積極的に他の作品を読みたいという気は起きない。ただ、「沖で待つ」というタイトルはいい。「袋小路の男」もいいし、タイトルの付け方は上手いね。

沖で待つ
沖で待つ絲山 秋子

文藝春秋 2006-02-23
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