濡れた太陽 高校演劇の話(上)(前田司郎) 8/26読了
高校に入学したての相原太陽は、オリエンテーションで独自の「桃太郎」を演出、上演し、絶賛されたことによって脚本を書きたいと思い始める。そのため演劇部に入るのだが、すでに3年生のチームが独占している。そこで太陽は演劇部の「のっとり」を企てて……。演劇部を軸に、絡み合う恋愛、自意識との葛藤、モテない男子のリアルな会話。誰もが自分の高校時代を思い出さずにはいられない、がんじがらめの青春小説!
もちろん演劇部の高校生たちの青春物語として十分に面白く読めるのだが、その形を借りた演劇論になっているところにこそ読み応えがある。
作者の分身であろう主人公の相原太陽が一本の芝居を上演するために様々な障害にぶちあたる。その悩みと葛藤の裏に演劇とは何かが隠されている。それが、時には相原太陽の意見として、時には神の声の作者の意見として語られる。演劇のテクニカルな部分や精神論に至るまで、かなり細かく言及されているので実に興味深かった。
演劇好きであれば、そういう点で非常に楽しめると思うが、別に演劇好きじゃなくても全然問題はない。そんなこと差し引いても文句なしに面白い。
自意識過剰な高校生たちの内面描写では、自分の高校時代を思い出さずにはいられないし、細かい描写でいちいち笑わせてくれる。
特に上巻最後の方の合宿のシーンが好きだったな。高校生たちが自炊するから(先生もいるけど)、食事の準備に時間が掛かる。作って、食べて、片付けると3時間くらい掛かる。これでは稽古しに来たのか食事しに来たのか分からないという文章で大笑いした。
- 作者: 前田司郎
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