『対岸の彼女』(角田光代)★★★★☆ 4/22読了

30代、既婚、子持ちの「勝ち犬」小夜子と、独身、子なしの「負け犬」葵。立場が違うということは、時に女同士を決裂させる。女の人を区別するのは、女の人だ。性格も生活環境も全く違う2人の女性の友情は成立するのか…?

「キャリア・ハイ」という言葉がある。例えば「アレン・アイバーソンは、ブルズ戦でキャリア・ハイとなる1試合55得点をマークした」というように使う。角田光代の本は数冊しか読んだことがないのだが、この『対岸の彼女』は角田光代にとっての「キャリア・ハイ」となる作品だろう。

有り体に言えば、既婚・子持ちの「勝ち犬」小夜子と独身・子なしの「負け犬」葵の交流を描いた作品だが、もちろんそんな単純な話ではない。
それにしても角田光代得意のリアルな描写ここに極まれりの感がある。特に、小夜子が娘のあかりを保育園に預ける際の、そして預けてからのすったもんだは、同様の境遇にある女性の共感を得るだろう(「激しく同意」とうなずく女性たちの顔が目に浮かぶ)。かくいう私も男性ながら、小夜子と似た境遇におり、小夜子の娘のあかりの性格が自分の娘の性格とよく似ているので、他人事とは思えなかった。

とかく人間はカテゴリー分けをしたがるもので(特に女性に対して)、既婚か未婚か、子ありか子なしか、働いているのかいないか、などと、どんどん区分けしていく。そしてやれ「勝ち犬」だの「負け犬」だのという話にもなっていく。しかし、そんなことには何の意味もない。未婚で働いている女性がすべて同じ性格の訳もなく、専業主婦で子どもがいる女性の性格がすべて同じはずもない。人間はひとりひとりすべて違うのだ。だから、境遇の全く違う2人の女性の友情は成立するのか?という問いはナンセンスでしかなく、自分とそして目の前の相手とが、ひとりとひとりの人間として、解り合えるかどうかなのだ。小夜子と葵が最後にどうなったかは実際に読んで確かめて欲しい。

本作は現時点での角田光代の最高到達点だとは思うが、相変わらず作者本人の体験が色濃く反映されている。自分の体験とは遠く離れた、まったくの作り話としての小説を書けるようになって欲しいと、個人的には思う。

対岸の彼女
対岸の彼女
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.23
角田 光代
文芸春秋 (2004.11)
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