失われた町(三崎亜記)★★★☆☆ 12/4読了

30年に一度起こる町の消滅。理由も分からずに失われる住民たち。果たして30年後に次の消滅を防ぐことはできるのか―。

「失われるもの」への思いという点では、『バスジャック』収録の「送りの夏」の流れを汲む作品と言っていいだろう。そしてそこに『となり町戦争』の世界観と、やはり『バスジャック』収録の「動物園」のようなSFチックな造語がちりばめられている。
「消滅」「感情抑制」「残光」「消滅順化」「余滅」「消滅緩衝地帯」等々の言葉に馴染めるかどうかが第一関門。そこを突破すれば三崎亜記独特の世界が待っている。但し、私にはこの三崎ワールドがうまくいっているとは思えない。どうしても映画のオープンセットのように感じられてしまう。『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」のようなしっかりとした手触りの感じられる世界観は構築できていない。
世界が構築できていないから、その中の登場人物たちも上滑りしてしまう。人間は色々な形で大切な人を失ってしまうものだが、仮にその人が失われたとしてもその人の「思い」や「望み」は残された人に伝わるはずだ、というメッセージはよく分かる。よく分かるのだが、その伝え方が直接的に過ぎるのだ。メッセージを直接語らずに読者に伝えるのが作家の技量だろう。その点ではまだまだという感じがする。

失われた町
失われた町
posted with 簡単リンクくん at 2006.12. 4
三崎 亜記著
集英社 (2006.11)
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