冷血(トルーマン・カポーティ)★★★★☆ 9/20読了

カンザスの村で起きた一家4人惨殺事件。5年余を費やして綿密な取材を敢行し、絞首台まで犯人たちを追った本書は、40年を経た今なお、輝きを放ちつづける。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル。人間の魂の暗部を抉りつくし、後進の作家たちに無限の影響を及ぼした暗黒の教典、待望の新訳成る。

村上春樹の文章などを読むにつけ、いつかは『冷血』を読みたいとは思っていた。映画『カポーティ』でフィリップ・シーモア・ホフマンがアカデミー主演男優賞を受賞し、新訳の『冷血』が文庫化された今、条件は完全に整った。

一家4人惨殺事件というショッキングな事件を扱ってはいるが、現代においてはもっとショッキングな事件はいくらでもあるので、ハナから事件性そのものに興味はなかった。では何に興味があったかというと、この作品で確立されたという「ノンフィクション・ノヴェル」という手法である。

とにかく構成が緻密で、どこまでも執念深く犯人たちの行動を追い続ける。それでいて犯人たちに向けられた視線は限りなく冷静だ。殺された家族の描写や村人たちの描写にも1ミリも手を抜いていない。犯人たちが盗んだ車で逃避行をしているときに、ヒッチハイクをしていた少年と瀕死のおじいさんを拾うくだりがある。本筋には関係のない実に小さなエピソードだが、私には実に印象深かった。このような小さなエピソードの積み重ねが本書に深みを与えているのは間違いない。

桐野夏生の『グロテスク』や『残虐記』も『冷血』の系譜に連なる作品だと思うが、本書は40年経った今読んでも全く古びておらず、その文章は少しも色褪せていない。「ノンフィクション・ノヴェルの金字塔」と呼ばれるのもうなずける。

映画『カポーティ』は9月30日から公開される。予定通り映画の公開前に小説を読み終えた。今は、映画『カポーティ』の公開がひたすら楽しみである。

冷血
冷血トルーマン カポーティ Truman Capote 佐々田 雅子

新潮社 2006-06
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star持ってても買い。
star5年間かけて徹底的に取材したノンフィクション小説

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