土に贖う(河崎秋子)★★★★☆ 6/25読了

明治時代の札幌で蚕が桑を食べる音を子守唄に育った少女が見つめる父の姿。「未来なんて全て鉈で刻んでしまえればいいのに」(「蛹の家」)。昭和35年江別市。蹄鉄屋の父を持つ雄一は、自身の通う小学校の畑が馬によって耕される様子を固唾を飲んで見つめていた。木が折れるような不吉な音を立てて、馬が倒れ、もがき、死んでいくまでをも。「俺ら人間はみな阿呆です。馬ばかりが偉えんです」(「うまねむる」)。昭和26年、レンガ工場で最年少の頭目である吉正が担当している下方のひとり、渡が急死した。「人の旦那、殺しといてこれか」(「土に贖う」)など北海道を舞台に描かれた全7編。

初読みの作家さん。新聞か何かで知って気になって読んでみた。北海道を舞台にした短編集で、養蚕やミンクの養殖、ハッカ栽培やレンガ造りなど、今では廃れてしまった産業に従事した人たちの営みや業が描かれている。薄っぺらい記号的な登場人物ではなく、ちゃんと血の通った人間が小説内を生きていて、とても読み応えがあった。1つ1つ独立した短編だが、最後の「温む骨」において、かつて北海道の地に骨を埋めていった人や動物たちを掬い上げているところが上手い。出会えて良かった本でした。