ユリイカ:この小劇場を観よ!

肝になっているのは、野田秀樹岡田利規の対談、岩井秀人西加奈子の対談、前田司郎へのインタビューと藤田貴大へのインタビュー。なかでも面白かったのは前田司郎へのインタビュー。ちょっと長いが、気に入った箇所を抜粋した。

「演劇のいいところって、マイナーでいられることだと思うんです。映画とかテレビの仕事をやっていくと、どうしても九割の人に向けて作んなきゃいけない。それってつまりすごく平均的なものを作る作業だと思う。平均的というのは突出したものがないってことでもあって、なかなか見るべきものを作るのは難しい。」

「ところが、演劇 ―小劇場限定ですけど― の市場は、客席も限られているし、デカくなり得ないんです(笑)。しかも本当にクソみたいなものから、すごく面白いものまでが並列に並べられる。そんなものは僕の知っている限り小劇場演劇しかなくて、それはすごく面白いことなんだっていうのを、一応みんなに示しとかないといけない(笑)。」

「やっぱ10本見て9本つまんないのが演劇だから、それを楽しむっていうのを、ちゃんとお客さんにわかってもらわないと。面白いものだけ見てもダメですよ。その前に苦行のような9本がないと(笑)。」

「人気劇団ばっかり観に行くみたいな人は信用しないです。クソみたいなのを観てこその演劇ですよ(笑)。演劇って、商品じゃないんですよね。商品というのは、ある程度の基準を満たさないと棚に並べられない。テレビ番組とかはそうですよね。だけど演劇はもう、どこの基準も通ってない、蚤の市みたいな状態。ゴミみたいなものも売ってて、その中にたまにすごい掘り出し物がある。今はそういう、金払ってゴミみたいなものを見るという行為が少なすぎると思います。映画も小説もマンガも、クソみたいなものが最初からかなり削られちゃってるでしょ。だから金払ってクソみたいなものを見る経験ができるのは演劇だけ。まあテレビ番組とかもほとんどはクソみたいなものだけど、タダだし。それに毒食わされることはない。森から適当に取ってきたキノコみたいな「これ絶対毒だろ」っていうものを食わされて、「許せない、金返せ」とか本当にムカつく気持ちは、今どき演劇でしか味わえない(笑)。そして、そういうものを面白いと思って必死に作っている奴がいるんだっていうのが衝撃的なんですよね。」

「僕自身、なんで芝居をやって小説を書いているんだろうって考えることがあります。普通に就職してた方が稼げるんじゃないかとか(笑)。でも、普通に言葉で考えても理解できない、たどり着けないものがあって、芝居とか小説を使えばより核心に近づくことができるっていう感触があるんですよね。つまり小説とか芝居とかを考える道具として使っているんです。道具ですから、お客さんによっては全く必要じゃないこともあります。寿司屋にフライパン渡したってしょうがないですもんね。でも、芝居や小説を使って、いつもは言葉で考えてること、でも言葉では捉えられない事に少し近づくことが出来る。僕は、そのための道具として、芸術はあるんじゃないかなと思います。」

五反田団の芝居は一度だけ観たことがあって、あまり面白くなかったのだが、前田司郎の小説はとても面白かったし、この人の考え方には共感できる。

ユリイカ2013年1月号 特集=この小劇場を観よ2013

ユリイカ2013年1月号 特集=この小劇場を観よ2013