雪沼とその周辺(堀江敏幸)★★★☆☆ 11/26読了

小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。

「雪沼とその周辺」を舞台にした、ゆるーい連作短篇集。
三人称で登場人物に「○○さん」と「さん」を付けるところや全体的にレトロな雰囲気から、すりガラスの向こうの映像を見ているようなぼんやり感というかおっとり感がある。
ポール・オースターのように「無」から「有」を紡ぎ出すわけではなく、ごく日常的な人間の営みを掬い上げたような作品群であるが、そこは手だれの堀江敏幸だけあって、独特の世界観に読者を引き込んでくれる。「癒し」という言葉はあまり好きではないけれど、読んでいると何だか癒されたね。
堀江敏幸の小説はペダンチックなものも多いのだが、これはそうでもないので、堀江敏幸初めてという人でも読みやすいんじゃないだろうか。

雪沼とその周辺 (新潮文庫)
雪沼とその周辺 (新潮文庫)堀江 敏幸

新潮社 2007-07
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おすすめ平均 star
star何気なく手に取ってみると
star喧騒とはかけ離れた、静謐な世界を淡々と描いている
star纏い

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