2月文楽公演 冥途の飛脚(近松門左衛門=作) 国立劇場

大阪の飛脚問屋・亀屋の忠兵衛は新町の遊女・梅川と深い馴染みで、どうしても身請けをしたいとの思いからついた嘘が次の嘘を生み、とうとう追いつめられて公金横領という大罪を犯してしまいます。次第に転落していく男女の姿を描いた近松門左衛門の世話物の傑作です。


淡路町の段>
口 竹本津国大夫
  竹澤団吾
奥 豊竹英大夫
  鶴澤清友


最後のところが良かったね。忠兵衛が三百両を配達に行くのだが、足は何故か梅川のいる花街に向かってしまう。そこで踏みとどまろうかそのまま梅川のところへ行ってしまおうかと散々逡巡する。「措いてくれう、措いてくれう、措いてくれうか、往て退けう、往て退けう、往て退けうか」。「措いてくれう、措いてくれう、措いてくれう・・・ヵ、往て退けう、往て退けう、往て退けう・・・ヵ」。この「か」が段々小さい声になるところが何とも言えなかった。そして最後「一度は思案二度は不思案、三度飛脚。戻れば合わせて六道の冥途の飛脚と」となって見得を切ってこの段が終わる。


<封印切の段>
切 竹本綱大夫
  鶴澤清二郎


この段は何といっても禿の三味線が楽しかった。この段の舞台となる越後屋は女主人ということもあって遊女たちが息抜きにやってきている。梅川も他の遊女たちとそこにいて、このままでは田舎客に身請けされてしまう、私は忠兵衛と添い遂げたいと涙を流す。そんな梅川を慰めるために遊女たちが浄瑠璃を語る。その三味線役の禿が小さな三味線を持って、実際に出語り床で弾いている三味線と同じようにバチを捌き、左手を動かすのだ。人形を操っている人からは三味線さんは見えないはずなので、合わせるためには相当練習したんだろうなと思う。禿が三味線を弾き終えた後は拍手喝采だった。


<道行相合かご>
梅川  竹本三輪大夫
忠兵衛 竹本文字久大夫
    豊竹新大夫、豊竹芳穂大夫、豊竹呂茂大夫
    竹澤団七、竹澤団吾、鶴澤清馗、鶴澤清丈、鶴澤清公


太夫が5人いて、三味線も5人いたのでにぎやかだったが、話的には悲しい場面である。

身をしのぶ道、恋の道、こゝの旅籠、かしこの宿り、三日四日いつかさて、命のかねのわびしくも、消ゆる心の細々道、我から狭き憂き世の道、野越え山くれ里々越えて、往くは恋故捨つる世や哀れ、はかなき

名調子だねえ。


初めての文楽は結構楽しかった。イヤホンガイドは借りようかどうしようか迷ったが借りなかった。字幕が出るし、プログラム(600円)には床本も付いているからだ。劇場は狭くもなく広すぎもなくちょうど良い広さだった。ちょっと後ろの方だったけど、それほど見にくいということはなかった。ただ、人形のうんと細かい動きまではよく見えない。だからオペラグラスで見ている人も何人かいた。
重要無形文化財保持者の竹本綱大夫さんの語りは素人が聴いても流石という感じがした。これはハマる人はハマるね。次の公演は5月か。次も行くかもなあ。