立川談春 まっくら落語会 赤坂区民センターホール

会場入りする前に食事をしていたのだが、遅くなってしまい、泡食って駆け込んだ。会の性質上、途中入場はできないからね。まだ始まっていないのに会場は薄暗い。席は後ろの方だったが、どうせ真っ暗にしてしまうのだから関係ない。


<一席目:死神>
マクラは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の話。談春は二度参加したことがあるそうだ。ニックネームを付け合うところで「ケッ」と思ったそうだが、私も同じことを思ったので気持ちはよく分かる。それでも「のぶちゃんでお願いします」と言ったそうだ(私の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」体験記はコチラ)。その後ひとしきり「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の話をしてから、いよいよ場内を真っ暗にしてから噺へ。


一席目は「死神」だった。この噺は、死神を退散させる時の呪文がひとつの聴きどころだが、今回は「離婚会見で金屏風、ハイッオッパッピー」だった。これには笑った。主人公がそんなの嫌だよと言うと、死神が「じゃあ、こんなのはどうだ。離婚会見で金屏風、どんだけ〜」と言う。もっと嫌だよということで「オッパッピー」になった。
ロウソクが消えるところでサゲになる場合が多いようだが、今回はロウソクの継ぎ足しに成功して生き残る。但し、死神に「馬鹿だなお前。そのロウソクが燃え尽きるまで死にたくても死ねねえぞ。じゃあな、あばよ」と言われてしまう。一人取り残された主人公は、外へ出るべく、真っ暗なトンネルのような道を壁伝いに何とか歩いて行く。ここが今回の会の趣旨に合うところで、真っ暗な中で聴いていると怖さが倍増した。最後は話がぐるっと一回りしたところでサゲ。ところが、終わったのか終わっていないのかが分からない観客はシーンとしている。談春が「おいっ、まさか死んじゃったんじゃないだろうな。終りだよ」と言ったので、そこで拍手。明かりがついたら緞帳は降りていた。


<仲入り>


<二席目:夢金>
屏風の裏にいる弟子に太鼓で風音、雨音、雪音などをやらせる談春。前座の頃に練習するそうだ。太鼓で雪音をしながら照明を消す。すると笛の音が聞こえてくる。しかもその笛の音がこちらに近づいてくるかと思えば遠ざかる。どうやら笛を吹きながら場内を歩いているようだ。きっと盲目の方が吹いているのだろう。これには驚いた。
二席目はいかに情景を思い浮かべられるかに主眼が置かれている。雪の降りしきる大川をゆく一艘の屋根舟。川端には桜の枯れ木に雪が積もり、雪の桜も乙なもの。上を向けば、真っ暗な空から白い雪が何千、何万と落ちてきて、自分が宙に吸い上げられるような感じがする。この漕ぎ手の熊蔵の感想が実に真に迫っていて、雪の大川の情景がありありと脳裏に浮かんだ。
志ん朝の落語』では、夢から覚めると自分のキンをつかんでいたという下ネタなのだが、談春は普通の夢オチにしていた。終わってから談春が「一年私を追いかけてくれた人なら分かると思うけど、今日はできが良かったんじゃない?」と言っていた。私の数少ない談春経験でもこの「夢金」は素晴らしかった。情景を説明する描写、熊蔵の啖呵、サゲにいたるところの絶妙の間。どこを取っても非の打ち所がなかった。あと20年もしたら、先達に比肩しうる名人上手になれるんじゃないかな。


「まっくら落語会」なのだが、実はかすかに明かりが見えていたのは残念。ただ、「落語は笑うもの、と決めつけている方には一風変わった会になるかもしれませんが、僕は古典と呼ばれる作品の力を信じます。何百年か前のこの国には確かにあった夜の暗さ、冬の寒さ、灯の愛しさ。そんな世界に舌先一寸で誘えたら・・」とパンフにあった談春の願いは十分に観客に届いたと思う。
一席目はまわり落ち。二席目も夢落ちだけどまわり落ちとも言える。一年の掉尾を飾る独演会で「まわり落ち」二席というのもなかなか気が利いていた。