2作目よりも更に完成度が高くなっている。島田虎之介恐るべし。3作目でも類い希なるストーリーテラー振りは健在だ。主人公は前作『東京命日』にも登場した調律師の戸田ナツ子。あらすじは、解説の村上知彦氏の文章を引用させて頂く。
語られるのは「ヴァルファールト」と名づけられた一台のピアノの運命である。20世紀初頭のカメルーン、1965年のジャカルタ、1980年代前半のイラン・イラク国境。それらの場所から時空を越えて、登場人物たちは2002年、サッカー・ワールドカップに沸く日本の東京・浜松・中津江村へと召喚される。
前2作に比べれば、ストーリーラインは明確だ。ドイツ人によって蹂躙された精霊の木で造られたピアノにかけられた呪いを解く使命を帯びて、カメルーン代表チームとともに日本に降り立つ呪術師の孫マンベ・マンベ。彼の聖なる木=ピアノ探索の旅は、同時に、そのピアノがたどった歴史と運命がもたらした、すべての悲劇にとっての救済でもある。
島田虎之介のマンガが映画的であることもあって、読んでいてアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バベル』を思い出していた。全世界に散らばっている一見関係のない人々があるきっかけを元にして一つに収束していくという構造がよく似てるんだよね。でもって、私には本作の方が『バベル』よりも面白かった。
第一話冒頭のシーンと最終話のラストシーンとの繋がりはそれこそため息が出るほど素晴らしい。「トロイメライ」という譜面のタイトルに付いていた血痕がラストシーンではきれいに無くなっている。ここに全てが救済された証がある。
トロイメライ | |
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