ジョッキー(松樹剛史)★★★★☆ 5/2読了

第14回小説すばる新人賞受賞作である。刊行当初から読みたいと思っていたのだが、読みそびれたまま月日は流れ、今更ながらようやく読んだ。


「競馬もの」にはディック・フランシスという大きな壁がある。それがミステリーであろうとなかろうとこの巨匠のおかげで読み手のハードルは非常に高くなっている。かくいう私もディック・フランシスの本はほぼすべて読んでいるので、「競馬もの」に対する目は肥えているつもりだ。それでも本作は面白かった。


主人公は中島八弥というジョッキーだ。千葉厩舎に所属していたのだが、ひょんなことから千葉厩舎を辞め、現在はフリーで騎乗している。なかなか騎乗依頼がないにもかかわらず、自分から営業もしないので、騎乗機会は週に一度あるかないかのおっつかっつの生活を強いられている。


そんな八弥が色々な厩舎の馬に騎乗するにあたって、その厩舎や馬の問題に巻き込まれることになる。読み進めるにつれ、何だかこれは時代小説に似ているなと思い始めた。主人公の八弥は「武士は食わねど高楊枝」を地で行く素浪人だ。まるで長屋のような美浦トレーニングセンターの厩舎群で起こる数々の事件を解決するかのごとく、数々の騎乗を経ることによって成長していく。


八弥には糺健一という兄弟子がいるのだが、その糺は今千葉厩舎にはいない。何故いないのかは最初は明らかにされず、徐々に分かる仕組みなっている。また、千葉厩舎の長である千葉徳郎の娘で厩務員をしている真帆子と八弥の関係も追々分かるようになっている。その辺の隠された人間関係を伏線にして、物語はラストの天皇賞へと向かっていく。


脇役陣もなかなか個性的だ。八弥の弟弟子でボンボンの大路佳康、美人厩務員の秋月智子、千葉厩舎のベテラン厩務員である亀造、競馬はロマンだと豪語する金満大馬主である伊能満、八弥と同期の天才ジョッキー生駒貴道。彼らの存在が物語を多彩に彩っていく。


クライマックスの天皇賞の一番人気は生駒の乗るオウショウサンデー。大路の乗るカッツバルゲル、秋月の乗るドロップコスモも出走する。果たして八弥の乗るオウショウエスケプは一世一代の大逃げでオウショウサンデーを振り切ることが出来るのか。最後はページを繰る手ももどかしいほど盛り上がったね。


ジョッキー
ジョッキー
posted with 簡単リンクくん at 2007. 5. 3
松樹 剛史著
集英社 (2002.1)
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