数学や物理では天才なのに、他人とうまくつきあえない自閉症の少年クリストファー。ある夜、近所の飼い犬が殺された。彼は探偵となって犯人を捜しながら、事細かに記録を取る。やがて驚くべき事実が明らかになり・・・事件を通して成長していく少年の心を描いた、『アルジャーノンに花束を』をしのぐ感動作。
色々な読み方のできる本だと思うが、子を持つ親としてはどうしても親の視線、特に父親の視線で読んでしまう。クリストファーの両親は確かにあまりいい親とは言えないかもしれない。しかし、彼らは2人とものクリストファーのことを愛している。私も子供ができて初めて「無償の愛」というものを知ったが、この両親にも当然それがある。クリストファーの信頼を裏切ってしまった父親が最後に信頼を取り戻そうとする場面では、「確かにお父さんの行動には問題があったかもしれないけど、それは君を愛しているがゆえのことだったんだよ。わかってあげてくれよクリストファー」と強く思ってしまった。
『アルジャーノンに花束を』のような感動的なクライマックスはない。ただ、淡々とした結末にはさざ波のような静かな感動がある。
訳者あとがきで小尾芙佐はこんなことを書いていた。
訳者は最近、エリザベス・ムーンというSF作家の書いたThe Speed of Darkという本を読みました。三十五才の主人公の青年に、クリストファー・ブーンの成長した姿を見る思いがしました。この本もいずれ早川書房から刊行されますので、あわせてお読みいただければと思います。
『The Speed of Dark』って『くらやみの速さはどれくらい』のことじゃないか。私はこっちを先に読んでいた。この本のことを思い出してみると、確かにクリストファー・ブーンが成長して、ルウ・アレンデイルになったのだと考えると実にしっくり来る。未読の人は順番に読んでみるといいかもしれない。
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