松ヶ根乱射事件 ★★★☆☆ テアトル新宿

舞台は90年代初頭頃。とある田舎町・松ヶ根で警察官をしている光太郎は、事件という事件のない退屈なこの町にウンザリしていた。実家は畜産業を営んでいるのだが、ぐうたらな父親・豊道は近くの床屋に居候中。そんな所へ流れ者のカップル、みゆきと祐二が松ヶ根にやってきた。何か訳ありっぽいこの二人の出現をきっかけに、ひき逃げ、金塊騒動、ゆすり、床屋の娘の妊娠と、平穏な町の平和に波風が立ち始めるのだった。

上映時間:112分
監督:山下敦弘
脚本:山下敦弘向井康介佐藤久美子
音楽:パスカルズ
出演:新井浩文山中崇川越美和木村祐一三浦友和キムラ緑子烏丸せつこ安藤玉恵西尾まり 、康すおん 、光石研 、でんでん 、榎木兵衛 、中村義洋鈴木智香子 、宇田鉄平 、桜井小桃

一面の雪景色の中に横たわる赤いコートの女。冒頭のこのシーンは明らかにコーエン兄弟の名作『ファーゴ』を意識しているだろう。ダメな人間がどんどんダメになっていくところもよく似ている。そこから話が進んで、主人公が警察官で、閉塞された町のなかでの犯罪という展開を見るにつけ、今度は阿部和重の『シンセミア』を思い出す。性描写や暴力描写など『シンセミア』との共通点は多い。ただ、この『松ヶ根乱射事件』は『ファーゴ』でも『シンセミア』でもない。あくまでもオリジナルな『松ヶ根乱射事件』なのだ。
出てくる役者の演技がみんないいね。特に三浦友和のダメ親父振りは光ってたな。あんなダメな三浦友和初めて見た。『ゆれる』でいい味を出していた木村祐一がこの映画でも存在感を放っている。
段々煮詰まっていって、最後にはどんな乱射があるのかと思って観ていると、強烈な肩透かしが待っている。それは観てのお楽しみ。不思議な余韻を残す映画だ。こういう映画も悪くない。