殺しの時間(若島正)★★★☆☆ 11/25読了

ゴダードからオースターまで、ミステリと文学の境界線を自在に往来する“殺しの時間”。忘れられた作家の埋もれた小説を掘り起こし、あるいは異色作家の復権を訴えたりと、さらに気ままな文学散歩を続ける“失われた小説を求めて”。読書という最高の「暇つぶしkilling time」をこよなく愛する著者が、あたかも「千一夜物語」の語り手のように、次から次へと読者の前に差し出す魅力的な本の数々。どの頁をひらいても小説を読む喜びに満ち満ちた至福の読書エッセー。“ミステリマガジン”長期連載104回を完全収録。

私は「ミステリマガジン」派ではなく「EQ」派だったので、この連載は読んでいなかった。まあおかげでこうしてまとめて読めたわけだが。それにしても目次に載っている書名を見ても読んだことが無いものばかりで全くピンと来ない。これはどうしたことかと思ったらこういうことだった。

最初に依頼されたときには、(1)現代の未訳小説で、(2)純文学とミステリの中間領域にあるものを取り上げる、という条件が付いていた。これはなかなか書く側としては厳しい条件で、麻雀に喩えるならば二飜(リャンハン)しばりということだろうか。

未訳小説なら知らないのも無理はない。実際104回のうち、読んだことがあったのはトレヴェニアンの『ワイオミングの惨劇』とスタージョンの短編集だけである。当時は未訳であってもその後翻訳が出た本は注が付いている。なお、この本は“殺しの時間”と“失われた小説を求めて”二部構成になっていて、後者はやや「しばり」が緩くなっている。各回はページにして3ページくらいの分量で、そのうち1ページ分くらいがいわゆるマクラで、残りが本の紹介になっている。私は大体この「マクラ」部分ばかりを読んでいた(邪道かもしれないが)。もちろん興味深い本の紹介のときは全部読む。特にロバート・マキャモンの "Boy's Life" の回は著者も力が入っていて面白かった。何しろ1ページも読まないうちに、大学の講義で使う本としてこの本を選んでしまったというのだから。なぜそうしたかは本書を読んで欲しいが、その中の一節で「この小説が翻訳されるとすれば、その邦題は絶対に『ボーイズ・ライフ』以外ではありえない」とある。ところが実際には『少年時代』という邦題で出てしまっているのだ。若島正は残念だったろうな。非常に面白そうなので、そのうち図書館で借りて読んでみたい。
それにしても半分仕事とは言え、凄まじい読書量である。そんな若島正は作家事典等の事典には目がないらしい。調べものとして使うだけではなく、何度も通読してしまうそうだ。そんな話を読んでいたら、前から気になっていた『サロン・ドット・コム 現代英語作家ガイド』を思い出して、すかさずAmazonマーケットプレイスで注文してしまった。

殺しの時間-乱視読者のミステリ散歩
殺しの時間-乱視読者のミステリ散歩若島 正

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